劇団四季「PHANTOM OF THE OPERA(オペラ座の怪人)」

1998.7.11 赤坂ミュージカル劇場

cast:今井清隆・森岡純子・柳瀬大輔 他

 知らない人の方が少ないあまりにも有名な舞台、「オペラ座の怪人」。どうも私はこの舞台に縁がなく、今年になってようやく見ることができた。しかもこれで2回目。1回目は1列目だったがよくわからないうちに終わっていたので、今回はもう少しきちんと見ることができた様な気がする。そんなわけでのレポートである。ただ、幾分ネタばらしにもなりかねないので、これから見る方はご注意を。(このへんがロングラン公演のつらいところかも)何分舞台レポは初めてなので、つれづれになってしまいますが、そのへんもお許しを。

《STORY》19世紀、パリ・オペラ座の地下には音楽に天才的な才能をもつ一人の男が隠れ住んでいた。若く美しいコーラスガール・クリスティーヌに心奪われた彼は、自分を彼女の亡き父がさしむけた「音楽の天使」だと偽り、歌のレッスンを施す。クリスティーヌは彼のおかげでめきめき歌が上達。また彼女は彼が実は皆が恐れている「オペラ座の怪人」であると知らず、父親への愛情に似た気持ちをもっていた。怪人の所業に怯えて逃げたプリマドンナの代役として舞台に立ったクリスティーヌ。舞台は大成功をおさめた。そしてそんな彼女と幼き頃に出会っていた子爵・ラウルとの再会。クリスティーヌは成功への道を歩んだかにみえた。が、しかしラウルの事をを知った怪人は嫉妬に狂い、クリスティーヌを地下の隠れ家へと誘いこむ。そこで彼女は彼の仮面の下の素顔を見てしまう。一方、怪人からの要求を劇場側がはねつけたことから、オペラ座では奇怪な出来事が次々と起こり出す・・・

 上記の文は一部チラシからの抜粋であるが、舞台を見ると・・ええ、主役は怪人です。(以下ファントムと呼ぶ)とにかくファントムがよいのだ。切ない役どころのせいか。あ、四季はロイド・ウェバー版の舞台なので、先日までやっていたケン・ヒル版とは少し違うらしい。こっちは・・・大甘ラブ・ストーリーです。今日の舞台はファントム-今井(敬称略)、クリスティーヌ-森岡、ラウル-柳瀬のメンツ。クリスティーヌがやや少女っぽく、かつたくましいように思えたのは私だけか。前回見たクリスティーヌが井料さんという方で、やはり役者ごとに解釈が違うせいか、そう思った。ただこのクリスティーヌの方が私にはわかりやすかった。声もよい。ファントム・今井氏と2人で地下の隠れ家に向かう途中、主題歌「PHANTOM of the OPERA」を歌うのだが2人で歌ってるのが良い感じなのだ。負けていない。ファントムがかなり美声で、わりとまわりが彼の歌声に比べると影がやや薄い気が前はしたが、今回はクリスティーヌも存在感ある声だったので、みごとに2人の世界(笑)だからラウルがさらに影が薄い。情けなささらに倍。なんでこんな男を選ぶ、クリスティーヌ。だがこのクリスティーヌはやけに常識あるように見えたので、今回は何となくラストも納得いった。ふむふむ。

 さて、私今回最後列右はしで見たのですが。とにかくセットがすごかった。プロローグのオークションからのオペラ座への場面転換、シャンデリアの登場とその電気がつくとともにかくされていたセットがすべてあらわれる、その変わり方がとにかくスケール大きい。映画のオープニングのような感じと言うか。「PHANTOM of the OPERA」のインストが流れるなかでのその舞台転換は圧巻であった。劇中劇「ハンニバル」もマンモスだか象だか出てくるし(象だな多分)。衣装転換もお見事。クリスティーヌは始め群舞の衣装なのだが、プリマが退場し、歌を認められ、代役が決定すると彼女の腰にドレスが巻きつけられ、代役になるのだ。そこから楽屋裏、部屋、そして地下の湖、ファントムの隠れ家とくるくる場面が変わって行くのだ。小船まで出てくるのだから。すごいぞ四季。そして舞台だけでなく舞台の上もまた使う。ここが前回私の見れなかったところである。舞台上に通路があって、劇場側が怪人の要求を無視すると決めたすぐ後の舞台、脇役にまわされたクリスティーヌの目の前でプリマドンナの声がカエルのようになり、場つなぎのバレエの途中で怪人の影があらわれたりする時、怪人は高笑いをして舞台上空のその通路にいるのだ。これはたしかに1列目では見えない。ううむ、惜しいことをしていたのだな。また私がそういうこまごましたポイント好きなだけに余計そう思った。屋上でラウルがクリスティーヌに求愛し、彼女がそれに応えたときも彼は舞台上で見ているのだ。そして嘆く。「愛を与え、音楽を与えた代償がこれか」と。2人の上で。そして嘆きながらシャンデリアを落とすのだった。なんだかファントム悲しいな。表舞台に立てず裏に隠れて色々するしかできないなんて。同情。

 そして2幕。半年後、ファントムは自分の作ったオペラを劇場に渡し、その公演をやれという要求を出す。主役はクリスティーヌ。そして彼はこうも伝える。「恩師のもとに戻ってこい」と。しかし「音楽の天使」=怪人と知ってしまい、さらに仮面の下の素顔を見てしまった事から自分は殺されてしまうと思っている彼女はこれを断わろうとする。がしかし、それを利用して怪人をつかまえようとするラウルに説得され、しぶしぶ承知する。そして当日、オペラ座は警官を動員してファントムを捕えようとするが、彼は役者になりすまし、まんまとクリスティーヌを連れ去ってしまうのだった。

 この問題のオペラの舞台がまたよかったのだ。今回のクリスティーヌはたくましく、そしてカンもいいらしい。その歌声で彼が役者になり代わっていると気付いた彼女は覚悟を決める。オペラの筋に沿った歌を歌っているようで実はここではファントムと彼女は互いについて歌っている。ここの2人のかけあいも絶妙。2人の切羽詰まった覚悟が曲からわかる。この二人なんか相性いいな、と思えるくらい歌が生き生きしていた。ただしここにはあまり書いていない墓場のシーンがちょっと理解に苦しんだが。たくましいクリスティーヌだとやはり何故あのシーンでファントムの方によろめくのか。まあ解釈をかえて実は惚れていた、というのもありかもしれない。2幕でようやくファントムは舞台の上に顔をだせる。仮面舞踏会のなかで、何げに役者にまぎれていたり、自作のオペラで役者を殺して彼になりかわって舞台にたってクリスティーヌを連れ去ったり。目立ちまくりである。私としてはファントムがたくさん出るのはうれしかったので、声が聞こえるとクリスティーヌのように嬉しくなっていた。(おいおい君だけや)

 一方、ラウルはこれを知り、彼女を助けに行くことを決める。唯一彼の正体を知っているマダム・ジリーから彼の居場所を聞き出した彼は2人のいる隠れ家へとむかう。そして劇団員たちもまた、そこへと急ぐのだった。そしてラウルの目の前でファントムはクリスティーヌに自分と彼のどちらかを選べと脅迫する。

 この時点で無理やりウエディングドレス着せられ、指輪まではめられているクリスティーヌ。ファントム嫉妬に狂ってめちゃめちゃ。でも彼女はそれも知っていた。愛するラウルの命と引きかえに自分との結婚を彼女に要求するファントムに彼女はキスで答えるのだ。・・・つまりあんた、ファントムの事も愛してはいたのね。それでラウルをとる、というのがいまいち理解できん。やはり男は金なのか。と思ったのは今回もだが、しかしそれでも「我が愛はおわりぬ〜」と歌ってしまうファントム。哀れ。一途すぎるぞファントム。そして、その思いを抱いたまま、追手が到着したとき、彼はまたいずこかに消えていく。うううう、切なすぎる。前回見たときはこのへんでクリスティーヌに言いようない憎しみを感じたが、今回はなんだか納得してしまった。だって妙に前向きなんだもん。あれはファントムとの日々を後悔してはいないし。その上でラウル選ぶんだから、ファントムも納得いくだろう。とりつかれたように、彼との日々を否定し怯えているのよりははるかに前むきなエンディングであった。そしてまたファントムの声がいいんだこれが。(自分こればっかりだな)切なさを胸にラストの曲を歌い上げるその姿につい感情移入して終演後20分ぼろぼろ涙とまらなかったのはこの私。そう、とにかくファントムの世界に良い意味で入ることができたのである。こんな舞台が大きい劇団でみれるとは。うれしいものであった。ぜひもう一度このキャストで「オペラ座」を見たいものである。

 さて、そんな中でも携帯電話が鳴ったり、後から来た人がしばらく立ちっぱなしで後が見えなかったり、といったことがあったりしてちょっといただけなかった。やはりどこでもそんな人はいるのだなあと思い、赤坂を後にしたのだった。言っても仕方ないけど、淋しいね、こういう乗って。舞台がよかっただけにね...。まあいいか、そういうときは「音楽の天使」の曲でも思い出して、気分をあげてみよう。うん。(そして演出を思い出して楽しむ私。)

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